研究概要 |
一過性の神経活動の活性化により、長期的に続く、反応性の高い神経回路の再編成が引き起こされる過程において、最初期遺伝子c-fos等の遺伝子発現の変化が重要な役割を果たしていると考えられるが、詳細な機序は明らかではない。本研究では、エタクリン酸のマウス脳室内投与により誘発される痙攣モデルを用いて、一過性痙攣から最初期遺伝子発現の変動を経て痙攣準備性獲得に至るまでの分子機構の解析を行っている。全汎用痙攣発作後のマウス脳RNA分画のノーザンブロッティングによる解析より、c-fos mRNAの発現は、痙攣の直後に一過性に増加した後、10〜14日目をピークとして地は遅発性持続性に増加する。本年度の研究では、この遅発性のc-fos発現の増加と痙攣準備性獲得の関係を明らかにするため、c-fosおよび神経の可塑性に関係する内因性物質の遺伝子発現の経時的解剖学的変動をin situ hybridization法による詳細に比較し、以下の結果を得た。 1.c-fos mRNA発現の変動 (1)海馬および大脳皮質特にpyriform cortexにおいて最も強い発現が見られ、いずれの場合もエタクリン酸投与後60分および7日をピークとする二相性(初期相および後期相)の変化を示した。 (2)海馬における発現は、両ピーク相共に、歯状回顆粒細胞(DG)に最も強く、次いで、初期相でCA1〜CA2>CA4≧CA3錐体細胞の順に、後期相でCA2≧CA4>CA3>CA1錐体細胞の順に強く見られた。 2.神経成長因子(NGF)および脳由来神経栄養因子(BDNF)のmRNA発現の変動 (1)NGFの発現の変動は海馬において最も著しく、エタクリン酸投与後60分および14日をピークとする2相性増加を示した。一方、BDNFの発現は全体に低く、海馬における二相性パターンは見られなかった (2)海馬におけるNGFの発現は、初期相においてDG>CA2,CA4>CA3>CA1の順に、後期相においてDG>CA2≧CA4,CA1>CA3の順に強かった。 以上より、一過性のエタクリン酸誘発痙攣が、遅発性持続性のc-fos発現増加を介して、新しい神経回路形成に関与している可能性が示唆された。
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