研究概要 |
神経系に於て発見された神経伝達物質の数は、ペプチド性のものも含めおよそ百近くにも及ぶが、個々の神経細胞はそのうちから数種類の伝達物質を発生期に撰択・発現し、その標的細胞に適切な情報を伝達する必要がある。これまでの分裂を終了した培養神経細胞、並びに生後ラットを用いた実験結果から、我々はニューロトロフィンの神経ペプチド誘導活性には、次の特徴があることを突き止めている。(1)ニューロトロフィンのペプチド誘導活性の強さは、BDNF=NT-5〉NT-3の順で、NGFにはその活性がない。(2)ニューロトロフィンによって影響を受ける神経ペプチド(ニューロペプチドY、ソマトスタチン、サブスタンスP)の種類は反応する個々の神経細胞によって異なる。(3)新生ラットと成長したラットの大脳皮質神経細胞を比べると若い新生ラットの神経細胞の方がより強い反応を示す。15EA02:今回我々は、これまでより、より若い胎児ラットより大脳皮質と線条体細胞を分離、培養することで、未分化な神経前駆細胞がニューロトロフィン(NGF,BDNF,NT-3)に対して、どのような神経ペプチド誘導活性をもつか調べた。大脳皮質と線条体に由来する未分化な神経前駆体細胞をニューロペプチドY、ソマトスタチンに対する抗体をもちいて、免疫染色法によりニューロトロフィンの効果を判定したが、有意の変化はみられなかった。この結果は、我々の予測に反しているのでこれらの神経ペプチドにたいするmRNAをノザンプロットで解析したところ、ニューロペプチドYmRNAは、培養した線条体神経前駆細胞でコントロールに比べ、BDNFで300倍、NT-3で100倍の誘導がかかっていることが判明した。つまり、これらの細胞は未熟なため神経ペプチドが、そのプレカーサーからプロセッシングされずに保持されているものの、もの神経ペプチドの表現型はニューロトロフィンで著しく誘導されうることが判明した。脳神経細胞が分化する胎児期にはBDNFとNT-5の遺伝子が既に内在性に発現していることも考え合わせると、これらニューロトロフィンが胎児期の未分化な脳神経細胞、もしくはその前駆細胞に働いて、ペプチド作動性の神経細胞を分化誘導に関与していることが判明した。
|