脳の血流は、筋原性、代謝性、神経性の種々の機構により調節されている.本研究は、脳血流低下時の血流回復を図るための神経性調節機構を解明する目的で開始した.今年度は、大脳皮質の局所血流低下のモデルを作成し、そのモデルに対するマイネルトの基底核からのコリン作動性神経系の刺激効果を検討した. 麻酔した人工呼吸下ラットを脳定位固定装置に固定し、頭頂葉皮質を覆う頭蓋骨約10mm^2の領域を開頭し、露出した大脳皮質表面にレーザードップラー血流系のプローブを装着した.また直径0.5mmの同芯円電極をマイネルトの基底核に刺入した. マイネルトの基底核を電気的に刺激すると、刺激強度依存性並びに刺激頻度依存性に大脳皮質血流が増加することを確認した.そして、大脳皮質の局所領域の血流を低下させるために、強力な血管収縮ペプチドであるエンドセリン(50-500nmol)を大脳皮質表面に滴下した。滴下後、大脳皮質局所血流は徐々に低下し、30-60分後に滴下前の約50-60%のレベルに達し、その低下は1時間以上持続した.安定な血流低下を起こした時点で、エンドセリン投与前と同様にマイネルトの基底核を電気的に刺激した.その結果、血流低下した状態でも、マイネルトの基底核の刺激により、刺激強度依存性、刺激頻度依存性の血流増加を認めた.ただし、血流低下を起こした状態では、血流増加を起こす刺激強度閾値電流の増加を認めた。 以上の結果より、血流低下時にも、マイネルトの基底核からコリン作動性神経系は、血流を増加させることが明らかとなり、大脳皮質血流低下の回復にマイネルトの基底核からのコリン作動性神経系の関与が有効である可能性が示唆された.
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