脳神経系における細胞接着分子と細胞膜裏打ち蛋白質の相互作用の意義を分子レベルで明らかにするため、神経細胞接着分子L1と細胞膜裏打ち蛋白質脳アンキリン(ankyrinB)に着目して、脳神経系の発生段階における神経細胞でのL1及びankyrinBの発現量と局在の変化をimmunoblot法及び免疫組織化学染色により解析した。alternative splicingによって生じる220-kD ankyrinBは全く同一の膜結合部位(L1と相互作用する部位)を有するにも関わらず、ラットの脳組織においてはL1の局在は440-kD ankyrinBと一致し、一方ラット小脳由来の初代培養神経細胞ではL1の局在は220-kD及び440-kD ankyrinBと一致した。従って、L1と脳アンキリンとの相互作用は、440-kD ankyrinBに存在する特異的挿入部分によって左右されるばかりでなく、神経細胞の外的環境によっても修飾されることが示唆された。次に、L1の細胞質部分をコードするcDNAを組み込んだ発現ベクターをヒト神経芽細胞腫NB-1細胞にトレンスフェクトし、脳アンキリンとL1の相互作用の撹乱を試みた。少なくともNB-1細胞では、大過剰のL1細胞質部分が発現(エピトープタグによって確認)されている細胞においても、脳アンキリンの発現、局在、あるいは細胞の形態は有意に影響されなかった。このL1の細胞質は、部分脳アンキリンへの結合部位を含んでいるにも関わらず、脳アンキリンと相互作用できなかった可能性があり、これは従来より示唆されていようにL1の二量体化が相互作用に必要であるためかもしれない。
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