本研究の目的は、脊髄介在細胞の興奮性を制御する神経機構を″介在細胞群に対する中枢性・末梢性シナプス入力(外因性神経機構)″と″介在細胞自体に内在する分子機構(内因性分子機構)″の2側面から解明することである。特に、今年度は、介在細胞の興奮性を制御するシナプス機構の解析に重点を置いた。 実験には、除脳ネコ標本(In vivo preparation)を用いて以下の成績を得た。 1;シナプス入力系の解析;延髄網様体から下行する筋緊張制御系から興奮性入力を受ける介在細胞と抑制性入力を受ける介在細胞の双方を同定できた。前者は脊髄前角内側部に多く分布し、屈曲反射経路から抑制性入力を受けること、後者は脊髄中間部及び後角部に多く存在し、屈曲反射経路から興奮性入力を受けることが明らかとなった。 2;介在細胞の出力系の解析;筋緊張制御系から興奮性入力を受け、かつ、屈曲反射経路から抑制性入力を受ける介在細胞の出力動態をspik-triggered averaging法を用いて解析した。その結果、この介在細胞は(1)後肢筋を支配するα運動細胞に対して単シナプス性抑制性電位を誘発すること、(2)脊髄反射経路内の介在細胞に単シナプス性抑制性電位を誘発すること、(3)後肢筋及び皮膚からの一次求心性線維に対して、Primary afferent depolarization(PAD)を誘発すること、などを明らかにできた。 3;リズム発生機構との関連性;上記の介在細胞群は中脳歩行運動誘発野に加えた電気刺激によりリズミカルな発射活動をすることが確認された。 この研究の成果は、(1)姿勢筋活動の抑制(全汎的運動抑制)を誘発する介在細胞をその入力系と出力系を含めて初めて同定に成功したこと、(2)その介在細胞が姿勢の制御と歩行などのリズム運動の発現に関与すること、(3)末梢からの反射経路から脊髄介在細胞群への入力が姿勢と運動の統合に重要な働きを持つこと、など運動制御の基本原理を説明する上で極めて重要な知見を提供したといえる。 これらの研究成果の一部は日本語の総説として印刷中である。また現著は神経生理学分野における専門学術雑誌に投稿中である。
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