頭頂葉後方下部領域近傍は、体性感覚、視覚、聴覚などの複数感覚が統合される脳領域で、ヒトではその損傷によって象徴作用が障害される。これまでに慢性ニホンザルのこの脳領域に、シンボル操作能力進化の前段階と考えられる道具使用行動に関連した以下の様な反応特性を持つニューロン群を発見した:a)視覚と体性感覚の統合による身体イメージの符号化-道具を手にすると、それは手の延長として機能する。このとき道具が手の一部に同化した内観を持つ。すなわち身体イメージが変化する。サルの頭頂間溝前壁部には、体性感覚と視覚とを統合して身体像をコードすると考えられるニューロン群が存在する。これらのニューロンは、身体像を構成する、体部位、姿勢、運動などの要素をコードする独立したニューロン群によって構成されていた。b)身体像の意図的操作-道具を使って遠くの餌をとるように訓練したサルの上記ニューロン群は、道具使用に伴う心理的な身体像変換(道具の身体への同化)に対応した活動特性を持つことを見いだした。さらに、直接手元を見る代わりに、モニタ上に写された自分の手のリアルタイム映像を見ながら餌をとるよう訓練すると、上記ニューロンの視覚的身体イメージがモニタ上に投影されたことを反映すると解釈される活動様式を示した。さらに、映像効果をがけるとにより道具使用に内在するある種のシンボル成分に対応すると考えられるニューロン活動を分離することが出来た。c)心的身体像の生成-サルが餌取り行動を行っている前腕を上から不透明な板で覆って見えなくすると、上記ニューロンの視覚受容野は隠された前腕の真上に相当する板上の空間に残存した。板の下で前腕の位置が変わると、視覚受容野もそれに伴って板上を移動した。これらの活動様式は、体性感覚情報と視覚情報の統合処理の結果、空間内における前腕の表象を心的に生成した結果を反映するものと解釈される。
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