本研究は、(1)CCGトリプレットリピートの伸長が染色体を脆弱化し、さらに世代を重ねることでその部分が破壊・欠失するという仮説の証明を試みると共に、染色体欠失モデルの開発を目的として、CCGトリプレットピートを導入したトランスジェニックマウスを作成する、(2)同時に、マウスのゲノムにあるCCGトリプレットリピートを検索し、ホモログを同定する、(3)標的遺伝子組み換えによって、ホモログのCCGトリプレットリピートを長いものと置き換え、染色体の脆弱性との関係を明らかにする、(4)これらのマウスを系統化したのち、交配実験を行い世代を重ねることでその染色体部位の破壊・欠失が生じるか否か観察する、を目的として遂行された。 当初計画した750繰り返しのCCGトリプレットリピートを含む遺伝子は、大腸菌中での安定性が悪く、また、クローニング自身が困難であることが他の研究グループからも報告されており、我々の場合も、純粋にCCGのみからなる安定なトリプレットリピートとしては100繰り返し以上のものが得られなかった。異なる長さのCCGトリプレットリピートDNA断片(100繰り返し、および60繰り返し、30繰り返し)を高GC含有領域の下流の非翻訳領域に挿入し、LacZ遺伝子の全身高発現ベクター(サイトメガロウィルスエンハンサー、βアクチンプロモータ)を作製し、遺伝子導入マウスを作成・系統化した。現在のところ、導入遺伝子中のトリプレットリピートの長さに関わらず初代、および2-3世代目のマウスに異常は観察されていない。また、トリプレットリピートの伸長や染色体部位の破壊・欠失も見られず、用いたリピートの長さが不十分であった可能性が示唆された。 マウスのCCGトリプレットリピートを検索・クローニングしたところ、ポリA結合タンパクII遺伝子であった。マイクロサテライトマーカーを用いてマッピングを行い、この遺伝子が14番染色体の20番地、CTLA1の近傍に位置することが判った。しかし、この遺伝子の塩基配列から、CGGトリプレットリピートが翻訳領域の5'末端側に位置することが判明し、標的遺伝子組み換えによって伸長したものに置き換える実験には不適当と考えられため、他の遺伝子を検索している。
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