ストレスがヒトや動物に性腺機能の低下や性行動の抑制をもたらすことが知られている。本研究は、オスアカゲザルを用い、慢性ストレスがサルの性腺機能に及ぼす影響およびその中枢機構について解明し、実験動物としてのサルを慢性ストレスモデルとして確立することを目的として行われた。昨年度に続き、慢性ストレスの負荷実験、各種ホルモン測定法の検討を行った。 成熟アスアカゲザルに、慢性ストレスを負荷し、経時的に採血して、血中ストレス関連ホルモン(ACTH、糖質コルチコイド、β-エンドルフィン)および生殖関連ホルモン(LH、FSH、テストステロン、インヒビン)濃度を測定し、ストレスによる内分泌学的変化を連続的に解析した。その結果、ある個体はストレスに敏感に反応し、一過性にACTH、コルチゾール、テストステロンの分泌が高まったが、個体によっては反応は鈍く、特にACTHの分泌の上昇がほとんど認められなかった。さらに、与えたストレスの除去を行い、同様に採血を繰返し、ストレスからの回復の経過を調べ、慢性ストレスが内分泌機能に与える影響を調べたところ、負荷前と同様の値を示した。下垂体-副腎皮質系とアンドロジェンの関係を調べた結果、ACTHの分泌との相関はなかった。一般に、グルココルチコイドはアンドロジェンの分泌を抑制することが知られているが、これらのストレス下で生じるストレス反応においては、下垂体-副腎皮質系と性腺系の相互作用ではなく、両方に共通の支配機構が推定された。また、ストレス負荷前および負荷期間にCRHを投与し、経時的に採血を行い、末梢血中分泌動態を調べたところ、ストレス負荷時にACTH分泌が相対的に高い傾向が見られた。
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