我々はラット(Ekerラット)遺伝性腎癌の原因遺伝子が、ヒト結節性硬化症(TS)の原因遺伝子であるTSC2のラットホモログ(Tsc2)であこと、さらにEkerラットの腎癌ではTsc2遺伝子の2ヒットが生じていることを明らかにしてきた。本研究では、Tsc2遺伝子変異がEkerラットの腎発癌の原因であること、並びに変異ホモ接合性が胎生期での致死を引き起こすことを最終的に証明すると共に、Tsc2遺伝子の機能を探るためのin vivoの解析系を確立する事を目的として、正常型Tsc2遺伝子を導入したトランスジェニックラットを作製し、上記の表現型を抑制することを試みた。昨年度の時点で、導入遺伝子により胎生期の致死が回避されること、さらにN-ethyl-N-nitrosoureaの経胎盤投与によって誘発される腎発癌が抑制されることを明らかにした。本年度はさらに自然発生腎癌に関して導入遺伝子の抑制効果があることを確認した。これまでのところ、導入遺伝子を持つ変異ヘテロ接合体には、生後1年以上経た時点でも全く腎発癌は認められていない。しかしながら、致死が抑制された。サザンブロット法により、これらの腫瘍中では導入Tsc2遺伝子の欠失が認められたことから、これらの腫瘍発生はやはり正常なTsc2遺伝子機能の欠損が発端となっていると考えられた。今後、本研究で確立したトランスジェニックラットの実験系を改良し、発生過程あるいは成体におけるTsc2遺伝子の機能解析に有用な系の開発を行うことができると考えられる。
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