本研究室(癌研細胞生物部)で作製されたHGF/SF遺伝子の欠失変異体マウスは、胎生中期(14日)に致死であり、変異ホモ接合体は、全て胎生10-14日で、胎盤の発生異常をきたす。しかし、HGF/SF遺伝子は14日から誕生までの間に起きる発生後期の器官、組織形成、特に中枢神経系の構築においても、重要な機能を持つと予想される。そこでHGF/SF欠失変異ホモ接合体の胎仔の胎盤異常を、4倍体胚会合法によりレスキューし、14日から誕生までの間に起きる発生後期の器官、組織形成、特に中枢神経系の構築におけるHGF/SFの機能を明らかにする事を試みた。まず核の分裂に影響せず細胞分裂を阻害する薬剤であるコルヒチンを用いて4倍体のマウス胚を作製した。C57B16/J胚を用いることにより4倍体胚が安定に得られた。そこで4倍体胚と正常2倍体桑実胚、4倍体胚とHGF/SF欠失変異ホモ接合体の2倍体桑実胚、の組み合わせで会合を行った。会合プレート上の直径約300umの小さな凹みの中で実施し、得られる会合体をその上で更に1晩培養し胚盤胞とし、これを仮親の子宮内に戻し、得られたキメラマウスを解析した。HGF/SF欠失変異ヘテロ接合体の雄、雌同士の交配により得られる2倍体桑実胚と正常4倍体胚との会合で、野生型、ヘテロ、とともにホモ接合体が出生するか否かをPCR法で検討した所、低比率ながらホモ接合体の存在が同定されHGF/SF遺伝子変異による胎児性致死が、4倍体胚との会合によりレスキューされたことが確認された。現在グルコースリン酸イソメラーゼ(GPI)遺伝子の多型性を利用して各構成細胞の寄与率の解析を行うと同時に中枢神経系の発達に関して組織学的な解析を行っている。
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