研究概要 |
肝細胞増殖因子として初めに発見されたペプチド性因子であるHGF/SFは,肝臓のみならず種々の組織でその増殖制御に関わるmitogenとしての機能が知られている。又,培養上皮細胞を離散させるmotogenとしての活性や、培養器官芽中の管腔構造形成を促進するmprphogenとしての機能も有する。HGF/SFは、生体中で上皮の形態形成に広く関与すると考えられ、またヒトでは大脳の一部の神経細胞、小脳の神経細胞に強い発現が観察されている。近年独のグループはHGF/SF欠失変異体の胎生中期における末梢神経軸索の微細な形態異常を報告しており,またHGF/SFがミクログリアの機能調節にかかわるとする報告がある。 本研究室(癌研細胞生物部)で作製されたHGF/SF遺伝子欠損マウスは、胎生14日までに致死であり、胎生10-14日で胎盤の発生異常をきたした。HGF/SFは胎生中期の胎盤でのtrophoblastの増殖と、迷路構造の形成に不可欠である。一方、胎生14日でホモ接合体が致死である事は、これ以降の発生段階におけるHGF/SFの機能の解析が出来ない事を示している。 そこで,HGF/SF欠失変異ホモ接合体の胎仔の胎盤異常を、4倍体胚会合法により救済し、14日から誕生までの間に起きる発生後期の中枢神経系の構築におけるHGF/SFの機能を明らかにする事を試みた。サイトカラシンBを利用する方法で、4倍体胚会合法を実施した所、次の結果を得た。即ち、PCR法で検討すると、予想出生率より低いもののHGF/SF欠失変異ホモ接合体の出生が確認されたが、ホモ接合体は出生後間もなく死亡した。この結果は、HGF/SFが、胎生中期から誕生以降においても生存に必須である事を示している。現在こうして得られた出生後数日のHGF/SF欠失変異を用いて、(1)神経細胞とグリア細胞の相互作用における機能、(2)抹消から中枢に到る軸策の進展の制御における機能、(3)及びシナプス結合の形成における機能、に着目して組織学的解析を実施している。
|