I型糖尿病(インシュリン依存糖尿病(IDDM))は遺伝的要因と環境要因が複雑に絡んだ多因子疾患でありその原因遺伝子についての解析は十分解明されていない。このモデル動物であるNOD系統においては糖尿病感受性遺伝子の研究が進んでおり、Major geneであるMHCについては分子レベルで構造が明らかにされている。しかし、糖尿病の様々な病態を解明して行くには、minor geneいわゆるmodifier geneを同定し、さらにそれらの遺伝子間の相互作用を明らかにしていくことが重要であり、このためには個々の遺伝子についてコンジェニックマウス系統を作製して解析して行く方法が有効である。本研究ではマウス第3染色体上にマップされたIdd3および第11染色体上のIdd4について糖尿病発症における他の遺伝子の影響を除くためこの領域に日本産野生マウスMSM由来の染色体領域を導入したコンジェニックマウスNOD/Shi.Idd3^<msm>およびNOD/Shi.Idd4^<msm>を作出した(N18)。その結果、コンジェニックマウスNOD/Shi.Idd3^<msm>はNOD/Shiに比べ糖尿病発症が顕著に抑制された。一方、コンジェニックマウスNOD/Shi.Idd4^<msm>はNOD/Shiに比べ尿糖およびInsulitisは抑制されなかった。次にNOD/ShiにMSM由来のIdd3およびIdd4の両遺伝子座をもつダブルコンジェニックマウスを作出しこれらの遺伝子の糖尿病発症における相互作用を解析したところ、このマウスではIdd3のみにMSM由来の遺伝子座をもつマウスよりも有意にInsulitisの発症頻度が高くなおかつ、Insulitisの程度も烈しかった。この結果、MSM由来のIdd4遺伝子座はNOD/Shi由来のものよりも糖尿病発症において高い感受性を示し、早期に発症する働きをもつ遺伝子であることが明らかになった。すなわちI型糖尿病モデルNOD系統においてはMSM系統と比較すると遺伝子座によっては糖尿病発症を抑制することがあり、さらに遺伝子間の相互作用による糖尿病発症への解明が重要なことが示された。今後更にダブルコンジェニックマウスを解析により各遺伝子の座位間による糖尿病発症への役割を明らかにしていきたい。
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