研究概要 |
本研究は、遺伝子資源保存の観点より、卵巣および精巣の凍結保存法を確立し、野生マウス遺伝子の効率的な保存システムを構築することを目的として計画された。野外から採集された野生マウスの遺伝子を保存するには、一般的には各々の配偶子、すなわち卵子や精子を凍結保存することが考えられる。しかし、その遺伝子を再利用する際には融解後生体外での配偶子の操作、人口授精、胚の移植など繁雑な操作を伴い、また、それらによる障害も考慮しなくてはならない。そこで本研究では配偶子単独としてではなく、それらを支持する生殖巣、すなわち卵巣、精巣全体として凍結保存する方法を確立し、融解後は生体に再構成することにより、動物本来の自然な繁殖活動のなかで凍結配偶子由来の個体を得ることを目指した。本年度は精巣の凍結保存法を確立するために、生後1-2日のマウス精巣を材料に様々な凍結プログラムで凍結を試み、融解後の組織学的検討と移植による精子産性を確認した。 DMSO処理後0℃,-20℃,-30℃,-40℃,-50℃へ冷却速度0.2℃/minで緩慢凍結後融解した場合には、生殖細胞の大部分が正常な形態を保持していた。一方、DMSO処理後0℃より、また、-20℃まで緩慢凍結後-180℃へ急速凍結した場合は、生殖細胞はほとんど全て障害を受けていた。しかし、-40℃,-50℃まで緩慢凍結後-180℃へ急速凍結した場合は障害は比較的少なく正常な形態を持つ生殖細胞が多数観察された。次に、凍結融解後、精巣を生体に移植することにより精子産性が可能か検討したところ、-40℃まで緩慢凍結後-180℃へ急速凍結の条件下では、移植後14日で減数分裂に入る生殖細胞が、また、移植後約6.5週では発達した精細管が形成され精子形成が観察された。なお、この時点での凍結精巣の重量は未凍結移植精巣の約70%であった。
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