本研究は、遺伝子資源保存の観点より、卵巣および精巣の凍結保存法を確立し、野生マウス遺伝子の効率適な保存システムを構築することを目的として計画された。野外から採集された野生マウスの遺伝子を保存するには、一般的には各々の配偶子、すなわち卵子や精子を凍結保存することが考えられる。しかし、その遺伝子を再利用する際には融解後生体外での配偶子の操作、人工受精、胚の移植など繁雑な操作を伴い、また、それらによる傷害も考慮しなくてはならない。そこで本研究では配偶子単独としてではなく、それらを支持する生殖巣、すなわち卵巣、精巣全体として凍結保存する方法を確立し、融解後は生体を再構成することにより、動物本来の自然な繁殖活動のなかで凍結配偶子由来の個体を得ることを目指した。 この計画を実現させるためには次の3点、すなわち1.凍結臓器の発育ステージ、2.臓器の凍結保存法、3.生体への再構成法、を検討する必要がある。卵巣についてはこれまでの検討の結果、生体卵巣が利用できること、緩慢凍結プログラムが適していること、移植法は従来の方法が利用できることが明らかになった。一方、精巣の凍結保存については、生後数日以内の精巣では緩慢凍結法で凍結可能で融解後生体に移植することにより精子形成が確認された。しかし、凍結精巣由来精子の受精能については未確認である。移植精巣と宿主精管との連絡、宿主雄の繁殖活動については今後の重要課題であり、凍結ステージの拡大も含めて検討する予定である。
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