研究概要 |
本研究では,歯科矯正における歯槽骨のリモデリングと力学的刺激との因果関係を,歯根部力学条件-血流-破骨細胞出現の相互関係から生体力学的に明らかにすることを目標としている.本年度では,まず歯根膜の物性値を測定し,その結果に基づいて組織切片対応の有限要素解析を実施し,破骨細胞出現部位の応力値を信頼し得る精度で推定することを目的した. 歯根膜の物性値は,歯,歯槽骨などの硬組織に比較して,厚さ約0.2mmの軟組織であるため実測値が極めて少なく,また、応力解析において重要な値となるため,弾性率測定装置を新たに作成し,ヤング率を実測により求めた.生体軟組織の力学試験は引張試験を行うのが一般的であるが,本研究の解析条件に対応できるよう,引張および圧縮の両試験法で試験可能な装置とした.その結果,歯根膜の力学特性は試験法によって大きく異なり,ヤング率は引張で0.37±0.11 MPa, 圧縮で0.079±0.017 MPaであること,また,弾性特性のひずみ速度依存性は圧縮試験において顕著であることが明らかとなった.従来,生体軟組織の力学特性はひずみ速度にほとんど依存しないとされてきたが,本研究によって,圧縮試験においては依存性があることが示唆された. 次に測定により得られたヤング率を用いて,組織切片に詳細に対応する有限要素モデルを作成し,破骨細胞の出現部位の応力値を求めた.その結果,破骨細胞は-45 kPa程度で最も多く出現することが明らかとなった.しかし,得られた応力値に関しては従来の仮説との対応が取れない点も認められた.応力の算出に関してはシミュレーション的手法を用いているため,実験的に妥当性を検証する必要性を認識するに至った.この点に関しては,次年度に計画している歯根膜内血流分布観察との比較により,歯根部力学条件-血流-破骨細胞出現の相互関係を実験的に検証することを目指す.
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