研究概要 |
コラーゲンゲル中で線維芽細胞を培養しつつ繰返し伸縮の力学的刺激を与える実験系を開発した.ひずみの大きさを10%の伸縮,周波数を0.5Hzとして24時間連続負荷を1週から2週まで加えた.刺激負荷実験を終えた試験片および対照群の静置した試験片をPBS溶液に浸した環境のもとで顕微鏡下で引張試験を行ったところ,培養時間の増加とともに両者の試験片とも弾性係数,最大応力が増加していることが分かった.そして伸縮刺激を与えた方が、弾性係数と最大応力の両者とも顕著に大きくなっていることが確かめられた.また画像解析により試験片内の弾性係数の分布を調べたところ,動的な刺激を与えた試験片内の両端では強化が進まず,試験片の中央部を中心として強化が促進されていることが分かった.これは試験片の両端では試験片が押しつぶされるために圧縮応力が負荷されるためと考えられた.力学的刺激の効果は細胞の種類により大きく変動するようであり,初代骨髄由来細胞の場合にはコラーゲンゲルを収縮する力が非常に強く,試験片を放置しておくだけでゲル収縮ににともないステンレスメッシュからコラーゲンゲルが離れてしまった.これに対してL細胞などではゲル収縮力が弱く,力学的刺激の効果はほとんど見られないようであった.生体内において対応する実験でも同様な傾向が確かめられた.このように生体内で力学的な機能をになう結合組織においては,力学的な刺激の有無が組織の運命を大きく支配することを示唆する実験結果が生体外,および生体内の培養実験系によって示された.これらの結果は生体内で人工の生体材料が安定して存在するためには,コラーゲンと生体材料との接着強度が重要であること,また細胞が界面を引き剥がそうとする力を発現するため,組織により材料適合性が異なることを示唆しており重要な結果である.
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