研究概要 |
血管あるいは神経が損傷をうけた場合,器材マトリックスから積極的に生体組織の再生修復を補助誘導するような医用材料を研究,開発することを目的とする.中性およびアルカリ金属照射併用型負重イオン源(NIABNIS)を用いて,高分子絶縁材料表面に5-30keVの比較的低エネルギーで負イオン注入を行った.LSI等のように材料表面を高精度に制御できることが期待できるが,それら材料表面に対する細胞挙動を検討した. 血管内皮細胞はAg@@S1-@@E1注入領域に明瞭に応答するのを認めたが,一般に高分子材料に銀負イオン(Ag@@S1-@@E1)注入を行った場合,例えば組織培養用ポリスチレン(TCPS)表面はより疎水性に,またポリスチレン(PS)表面はより親水性に変化することが,接触角測定およびXPS測定から明らかになった(平成8, 9年度).縞状にAg@@S1-@@E1注入を行ったTCPSにおいて行った血管内皮細胞の培養初期では,Ag@@S1-@@E1注入領域に隣接するTCPS領域上に細胞は過密に集合し,Ag@@S1-@@E1注入の縞領域に平行に配列するのを観察した.一方,Ag@@S1-@@E1注入PSではAg@@S1-@@E1注入領域に細胞は生育したが,細胞密度は低く,材料の親疎水性だけでは細胞適合性は説明できなかった. 負イオン注入材料の神経細胞PC12hの分化に対する影響を検討した.タンパク質コートを行なわない場合,コントロールのコラーゲン・コートTCPSよりも突起形成は悪かった.Ag@@S1-@@E1注入PS,C@@S1-@@E1注入PS,Cu@@S1-@@E1注入PS上細胞は負イオン注入領域に定住して,突起形成も特異的に負イオン注入領域に見られるのを観察した.それらの差異についてはさらに検討する必要がある.細胞骨格タンパク質および細胞接着タンパク質に対する抗体でAg@@S1-@@E1注入材料上の神経細胞もコントロールと同様に染色した.負イオン注入の効果は材料の親疎水性の変化による細胞接着タンパク質の吸着に影響すると考えられる.
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