研究概要 |
現在の携帯型人工膵島はインスリンを静脈内に注入する事により生理的な血糖制御と血漿インスリン動態を再現しうる。しかし,その長期臨床応用のためには,安全性および管理の面よりインスリンは皮下注入とする事が望ましいが,携帯型人工膵島において速効型インスリン皮下注入時に生理的インスリン動態を再現することはできない。そこで本年度は,超速効型インスリンアナログ(Insulin Lispro)を用いたclosed-loopインスリン皮下注入アルゴリズムを試作した。 【方法】 1)インスリン皮下吸収動態解析 濃度4U/mlの速効型インスリンおよびinsulin Lispro0.12U/kgを内因性インスリン分泌を認めない糖尿病患者に皮下注入した際の平均血漿インスリン値を求め,皮下吸収動態を皮下compartmentを注入局所と拡散のcompartmentに分割したthree-compartment modelを用いて数値解析した。 2)インスリン皮下注入アルゴリズム作成 血糖値の比例・微分動作に基づくインスリン皮下注入式IIR(t)=Kp・G(t)+Kd・dG(t)/dt+Kcに1)の結果を代入しインスリン皮下注入パラメーター(Kp,Kd,Kc)を決定した。 3)シミュレーションによる検討 経口ブドウ糖負荷時,血糖値を正常化した場合のインスリン皮下注入パターン及び血漿インスリン動態をInsulin Lispro皮下注入アルゴリズム作動下においてシミュレーションした。 【結果】 1)インスリン皮下注入アルゴリズム作成 Kp,Kd,Kcはそれぞれ速効型インスリンでは0.014,2.3,-0.79,Insulin Lisproでは0.011,1.0,-0.59であった。 2)シミュレーションによる検討 従来の速効型インスリン適用では,食後2時間の高血糖,遅延型高インスリン血症,その結果としての低血糖発症を認めたのに対し,Insulin Lisproを適用した本アルゴリズムにより,経口ブドウ糖負荷時の生理的血漿インスリン動態をシミュレーションすることができ,生理的な血糖制御が可能なことを示唆し得た。
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