「目的」本研究は親水性ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)と疎水性ポリスチレン(PSt)のセグメントが交互に規則的に並ぶラメラ状の相分離構造を有するPHEMA-PSt-PHEMA ABA型ブロック共重合体(HSB)表面の抗血栓性機序の解明、とりわけ血小板内への刺激伝達抑制機序の解明を目的にした。今年度はHSB表面に対する膜貫通性糖蛋白質から膜骨格(MS)を解離した血小板及びMS非解離血小板の粘着挙動の違いについて、電子顕微鏡学的手法を用いて解析した。 「方法」保護基を用いたアニオンビング重合法により合成し、ラメラ幅160Åの相分離構造を有するHSB[平均分子量(Mn)は10600であり、このうちPHEMAのMnは5100、PStのMnは5500]を調製した。疎水性の均一表面を有するPSt及びPHEMA-PStランダム共重合体(PHEMA/PSt=1/1)(HSR)を対照群として用いた。血小板MS解離にはジブカイン塩酸塩(最終濃度:0.5mM)を用いた。ポリマービーズ(φ150μm)を最密充填した塩化ビニル製のカラム(長さ:10cm、内径:3mm)にMS解離及びMS非解離血小板浮遊液をマイクロスフィア・カラム法を用いて2種類の流速((1)0.1ml/min×15min、(2)0.5ml/min×3min)で室温にて流した。そして、これらの材料表面に室温にて3時間静置粘着した血小板の超微形態変化を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)にて解析した。さらに、粘着血小板のTEM像を画像解析装置(Luzex 3U)を用いて定量的に評価した。 「結果・考察」1)MS非解離血小板を用いた場合:PSt及びHSR表面に粘着した血小板は活性化を受けており、貯蔵顆粒(SG)が放出された伸展形を呈していた。一方、HSB表面に粘着した血小板は著しく活性化を受けており、貯蔵顆粒(SG)が放出された伸展形を呈していた。一方、HSB表面に粘着した血小板は著しく活性化が抑制されており、SGが豊富に保持された球状形を呈していた。このHSB表面での1μm^2当たりSG数は正常血小板のそれとの間に有意差はなかった。2)MS解離血小板を用いた場合:PSt、HSB及びHSB表面に粘着した血小板はいずれの場合も球状形であり、SGは豊富に保持されていた。これらの材料での1μm^2当たりGS数は正常血小板のそれとの間に有意差はなかった。昨年度の血小板膜グリコカリックス(GC)の研究結果を踏まえて、流速の違いを問わず、HSBの相分離構造表面は血小板膜の安定性に寄与し、血小板GCからMSへの刺激伝達を阻止することにより血小板の超微形態変化を抑制することが示唆された。
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