研究概要 |
本研究ではヒトの立体視の成立過程およびその知覚形成時における下位からの情報に対する上位からの制御について,脳活動の非侵襲的計測と理論モデル的考察とによって検討を加えた。脳機能の計測手段としては脳波と脳磁気測定を利用した。脳波測定は従来からよく用いられ,豊富な知見の集積がある。一方,脳磁気測定はごく最近の新しい計測手法であり,脳内活動源位置が高分解能で推定できる利点をもつ。そこで両者を併用する形で測定を行った。ついで,測定から得られたデータから,立体視覚を制御する脳内機構についてのモデル構築に必要な諸情報を抽出した。 実験はレベルの異なる3種類のタスクについて行われた。まず単なる閃光刺激に対する脳の一次反応を測定し,活動源の時間空間的性質を明らかにした。具体的には2相性の反応が観測され,閃光刺激提示後潜時約100msと約200msでの視覚領での活動が顕著であり,時間とともに異なる移動軌跡を描いた。次に,2次元図形と3次元図形に対する脳の反応を比較検討した。この場合反応は3相性となり,新たに潜時330msの活動が見られた。このうち様子が最も異なるのは潜時約200msの活動であり,この時点で下位からの情報をもとに3次元性の判断に必要な情報処理が行われているものと考えられる。そして第3のタスクとして奥行き多義立体図形の呈示を行い,その反応を測定した。その結果,奥行き多義性の解消に関係すると見られる上位からの情報の流れが観測された。 以上から,立体知覚形成時の脳内での情報処理過程におけるおおよその時間-空間要素が得られたが,上位機構と下位機構の相互作用により生成されていると思われる磁界の様子は大変複雑であり,活動源位置の推定にはさらに検討が必要であろう。
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