本研究では、表面弾性波を使ってソフトマテリアルのずり弾性を測定しようと試みた。表面波を使って液体や単分子膜溶液の表面張力を調べる研究はよく行われているが、ずり弾性を研究している例は少ない。 生体組織の硬さの研究は超音波領域のものがほとんどで、低周波のずり弾性率は測定されていない。鳥ささみ肉、牛心筋の表面波速度・吸収を測定し、それからずり弾性率を導いた。このような繊維状生体組織の超音波音速では方向によって数%の差しかでないが、表面波速度は2倍という大きな差を示すことがわかった。これらから弾性率テンソルを求めることができた。 ゲルについては、表面張力とそれと同程度の弾性という二つの復元力を持つ媒質中の表面波伝搬特性は知られていなかった。研究を進めていくうち、我々と同時期にJ.L.Hardenらが理論的解析を行っていることを知ったが、実験的には我々の研究の方が先鞭をつけた。理論的にも小野寺嘉孝教授(明治大学物理学科)の多大な協力を得て、異なったアプローチから表面波伝搬特性を明らかにすることができ、二つの表面波モードが同時に存在するというあたらしい知見も得ることができた。まだ、やり残しの課題はあるが、生体組織、ゲルのずり弾性を研究する新しい方法の基礎は十分に固まったと信じる。
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