研究概要 |
本研究では,Hb小胞体やリピドヘム小胞体の酸素運搬能力を血流中で長時間持続させるため,二分子膜を介した電子伝導系を利用する新しいメト化体の非酵素的還元系の設計とその実現を目的としている.平成8年度は二分子膜に対する溶解性の異なる電子媒体,電子受容体を導入し,電子移動過程,移動効率に関する基礎知見を集積した. 1.Hb小胞体の外水相にNADH,アスコルビン酸などの水溶性還元剤を添加しても二分子膜を透過できないため内水相のmetHbは全く還元されない.膜中にユビキノン-10を導入したHb小胞体では,窒素下において内水相metHbの還元が確認された.これは電子媒体としてのユビキノンの機能を示しているが,空気雰囲気では生成ユビキノイドラジカルからの活性酸素種の発生により却ってメト化率が増加する結果となった. 2.水相及び脂質相の両方に可溶なメチレンブルーを電子媒体とした系では,外水相に添加した水溶性還元剤から膜を介した電子移動が極めて効率よく起こり,例えば40%のメト化率が15分以内に5%以下にまで低下した.速度論的解析から,本反応の律速段階は外水相における還元剤とメチレンブルーの反応であり,メチレンブルー分子間の速やかな電子交換を経てmetHbを還元することを明らかにした. 3.脂質膜中に配向固定した亜鉛リピドポルフィリンからの光電子過程を観測するために,脂溶性あるいは水溶性の電子受容体への電子移動をレーザー閃光ナノ秒時間分解測定にて行った.脂溶性電子受容体系では電子移動は速やかに生起するが移動後の電荷分離状態は不安定であった.また,アルキル鎖炭素数16あるいは18のリピドポルフィリンでも水溶性電子受容体へ確実に電子移動が起こり,これが分子充填状態に影響されることを明らかにでき,光電子移動によるmetHb還元系の構築に具体的な目途を付けることができた.
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