研究概要 |
本研究では分子集合を利用するヘモグロビン小胞体やリピドヘム小胞体の酸素輸送能力を長時間持続させるために二分子膜を介した電子伝導系を利用するメト化体の非酵素的還元系の実現を目的としている.平成8年度は二分子膜中にユビキノン-10,メチレンブルーを導入,これを電子媒体として外水相に添加した還元剤によるメト化体の還元について検討した.平成9年度では本還元系に大きな影響を及ぼす酵素および活性酸素について,酸素分圧の変化や活性酸素消去酵素を用いて定量的に検討し,効果的な条件設定を行った. 1.水相および脂質相の両方に可溶なメチレンブルーを電子媒体としてヘモグロビン小胞体に導入した系では,外水相に添加した水溶性還元剤によって膜を介した電子移動により内水相のメトヘモグロビンが還元された.しかし,酸素分圧の増大と共にメト化率は一度減少した後再び増加する傾向が強く認められ,これはメチレンブルー導入量や外水相還元剤量の増加と共に顕著になり,還元体のロイコメチレンブルーから電子が酸素に移動し,生じた活性酸素が逆にヘモグロビンのメト化を促進した結果であった.このことは活性酸素消去酵素の添加によってメト化体の増加が抑制されることからも確認された. 2.1.の結果を受けてメチレンブルーの導入量を12μMの少量とし,水溶性還元剤アスコルビン酸を200μMずつ3回に分けて5時間の間隔で添加することにより,37℃にて40時間経過後もメト化率を10%程度に抑えることができた.本操作を行わない系では同条件で80%以上のメト化の進行が認められた 3.亜鉛リピドポルフィリンからの電子受容体への光電子過程に関する基礎知見を得るために,これを溶媒(DMSO)に均一溶解させた場合と二分子膜中に配向させた場合について比較した.均一系ではアルキル鎖が構築する排除体積が電子受容体の接近を妨げている様子が定量的に示すことができた.他方,二分子膜中ではアルキル鎖長がマトリックスのリン脂質アシル鎖長よりも長い系ではむしろ内水相への電子移動過程が容易になることが明確に示され,ポルフィリン環と内外水相との距離が相違することが示唆された.
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