本研究の目的は、骨粗鬆症が誘因となる骨折機序を生体力学的に検索することにある。平成8年度には、骨粗鬆症による海綿骨骨梁構造の形態学的変化(退行変化)と、それが海綿骨の力学的強度に及ぼす影響を検討することを目標にした。 大腿骨頚部内側骨折のため骨頭摘出に至った大腿骨頭の海綿骨をX線学および骨形態計測学的に検索し、骨粗鬆症の確定とその伸展程度はどの程度かを判断しインデックスを付けた。大腿骨頭主圧縮骨梁群とその周辺海綿骨の前額断面の光顕像を画像解析し、骨梁構造の形状特徴量を自動分析した。骨粗鬆症海綿骨では、横骨梁に骨吸収が集中する傾向があり、形態的にも主圧縮骨梁に比べて横骨梁が細く痩せ、分断した部分も確認された。 大腿骨頚部内側骨折の骨折形態を典型的骨折型(A型)と三日月型骨折型(B型)の2種類に分類した。AB2種類の骨粗鬆症海綿骨に圧縮及びせん断実験を実施した。圧縮及びせん断負荷を与える方向を骨梁の配向方向に対して並行または垂直と変化させて実験した。特にせん断試験の結果から、骨粗鬆症の発症は横骨梁の破壊強度を低下させ、主圧縮骨梁間の層巻破壊を誘導することが示唆された。骨粗鬆症の更なる進展は、主圧縮骨梁の板状骨梁に既存の円孔の直径を増大させ、かつ骨梁の平均厚さも減少させる。結果として主圧縮骨梁の強度も低下させた。骨粗鬆症の影響が横骨梁のみならず主骨梁にまで及び全体の強度低下を示したのはB型の骨頭から採取した海綿骨であった。また、A型の海綿骨は主骨梁間の層間破壊を発生しやすい構造となっていることが知られた。これら海綿骨の骨梁構造形態に依存した破壊形態あるいは亀裂の方向性は、大腿骨頚部内側骨折の骨折線を特徴づける重要な要因の一つであるとの知見を得た。
|