研究概要 |
本研究の目的は,骨粗鬆症が原因して発生した大腿骨頚部骨折の力学的機序を検索することにある. 平成9年度では,主に頚部骨折で摘出した骨頭海綿骨の骨形態計測を行い,骨折型の違いによる組織学的形態計測パラメータの違いを比較した.骨梁構造の特徴量を表示するため,骨梁幅など一般的に用いられるパラメータのほかに,平均横切長や異方性の程度を表すパラメーターも導入した.頚部骨折形態は典型的型(A群)と三日月型(B群)に分類できる.骨頭の内側域,主圧縮骨梁群および外側域の骨形態計測パラメータを測定した.A群の骨梁幅は主圧縮骨梁群がもっとも大きく,内外側のそれは相対的に小さい分布を示た.一方,B群の骨梁幅には部位による差異が小さかった.また,異方性に関する特性値については,A・B群ともに主圧縮骨梁群の異方性は顕著であったが,内外側領域の異方性はほとんど認められないなど,構造指標の特徴が明確になった.これらの骨形態学的パラメータを別に測定した各部の力学的強度データと重畳して検討した結果,骨粗鬆症による骨梁構造形態の変化が,亀裂の進展方向を決定付ける大きな役割を果たしていることが示された.すなわち,骨折を生じる外力は種々の大きさと方向をもって股関節に作用するが,骨頭内部ではすでに骨粗鬆症によって骨梁構造の変化による骨頭内各部位の強度の違いが発生しており,それに従って骨折線が進行して,特定の骨折形態を生じることが示唆された.特にA群の骨折形態については,有限要素法による解析結果なども併せて考察し,内側部に進展する骨粗鬆症の影響はほとんどなく,外側に亀裂が生じ,亀裂は主圧縮骨梁群に達した後,方向を遠位側に変えて内側皮質へ向かって進展して骨頭骨折に至ることがわかった.
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