研究概要 |
大腿骨近位端を構成する海綿骨は,その力学的機能と骨梁の形態によって主圧縮骨梁群をはじめとする複数の骨梁群に分類される.本研究の最初に,骨梁群の圧縮強さはその骨密度の累乗に比例することを確認した.一方,骨粗鬆症は骨密度を低下させ,骨の易骨折性を誘導する.この意味で骨粗鬆症と骨密度は深い関係にあるといえるが,骨密度はいわゆる等方性の変数であり,海綿骨が示す構造異方性による強度の差異を示し得ない.骨粗鬆症が原因して発生した大腿骨頚部骨折は,様々な方向・大きさの外力を受けて骨折に至るにもかかわらず,典型的形と三日月形骨折型の2種類の限定された骨折線形状を示すだけである.この理由は,骨粗鬆症が前述した骨梁群の骨梁構造形態を変化させることであることを明らかにした.同時に,骨頭外側,主圧縮骨梁群と骨頭内側部それぞれの圧縮強さと骨形態計測学的特徴量を比較し,骨粗鬆症が典型的骨折型の骨折線形状を発生させる生力学的機序を示した.DEXAによる腰椎,大腿骨近位端各部の骨密度(BMD)測定を行い,それらと実験的に求めた骨頭海綿骨の力学的強度の相関性を検索した.大腿骨近位端各部のBMDは海綿骨の強度と相関性が高かったが,腰椎部のBMDとは相関を示さなかった。このことから,大きく離れた部位のBMDでは,骨折危険個所を指摘することはできないことが示された.すなわち,現状のBMD測定値だけでは骨粗鬆症の傾向は指摘できても,部位を特定した大腿骨頸部骨折や椎体圧迫骨折を予測することは不可能であることを指摘した.海綿骨の構造異方性の程度は画像処理の手法を用いることで単純X線像から推定可能であり,DEXAによるBMD測定値と海綿骨の構造異方性を考慮した実験的・計算力学的手法による力学的の特性値の集積結果を総合判断することで,非侵襲の高精度骨折予防診断システムが構築できることを示した.
|