「聖人の登場-初期キリスト教美術における聖人図像の展開について-」(『美術史における軌跡と波紋』辻佐保子先生献呈論文集刊行会、1996年、pp.3-25.)において、カタコンベ壁画および石棺浮き彫りにおける聖人図像を分類記述し、その原因となった聖人崇敬儀礼の発生について明かにした。続いて、「聖堂装飾プログラムの発生と展開」(『世界美術大全集7西欧初期中性の美術』、小学館、1997年、pp.349-357.)では、地下墓地であるカタコンベ壁画から、地上の壮大な聖堂装飾プログラムへの転換について述べ、その装飾理念の変化に着目した。さらに、「Basilica Portianaの失われた記憶について」(『弘前大学人文学部文経論叢』、32巻3号、1997年、pp.159-181.)において、地上の霊廟所である、ミラノのサンタクィリ-ノ礼拝堂(サン・ロレンツォ聖堂)の壁面モザイク装飾がカタコンベ壁画と近似した様相を示すことから、慎ましい地下墓室からモニュメンタルな聖堂装飾への橋渡しをした重要な作品として位置付けた。このようにして、突然現われたかのような複雑な聖堂装飾プログラムが、実は聖人崇敬儀礼を母胎とし、地下での準備期間を経てうみだされたことを明かにしたのである。また、その基本装飾原理は、そもそも時間表現あるいは連続説話表現に拘泥しないものであったことをも強調する必要があるだろう。
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