研究概要 |
本研究では、情報マスキング中のマスク音の個数を操作し、周波数あるいは強度でマスク音から知覚的に分離されたターゲット音の分解能を測定した。マスク音、ターゲット音は46ミリセカンド、75dBの純音で、時間間隔なく連続呈示された。ターゲット音の周波数は900Hz、マスク音の周波数は953Hz以上で半音間隔で異なっていた。マスク音の個数は2、4、6、8個のいずれかであり、ターゲット音とマスク音の呈示順序は毎試行ランダムに選択された.実験は2区間強制選択法で行われ、ターゲット音の周波数分解能は弁別正答率で測定された。 現時点では、周波数によってターゲット音とマスク音を分離した2実験が終了した。実験結果は次の通りである(二口・森,1996)。 1.マスク音数が2〜8個と変化しても、弁別正答率はほとんど変化しなかった(実験1)。 2.マスク音の周波数が全体的にマスク音周波数(900Hz)から離れるにつれて弁別正答率は上昇し、6半音離れるとターゲット音単独呈示の正答率(89%)とほぼ同じとなった(実験1)。 3.ターゲット音単独呈示時の正答率が低い(71%)条件でも2.と同様の結果が得られた(実験2)。 4.実験回数が進むにつれ、被験者の成績は上昇した。成績の上昇は、マスク音数が8個の条件やマスク音とターゲット音の周波数が近接した条件など、課題が困難な場合に顕著であった(実験1)。 ターゲット音とマスク音の周波数分離の効果は、ターゲット音の知覚的分離によって聴取者の注意が誘導されたことを示しており、先行研究(Ward & Mori,1996)と一致する。マスク音数の効果がほとんどないことは、周波数分離による注意の誘導が非常に速いことを示す。また、4.の結果は知覚的学習によると考えられ、注意と学習の関連性を示唆している(森・二口,1996)。
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