情報処理過程として視覚を捉えた場合、遮蔽された部分に関する処理の詳細は全く未解決の問題である。この問題に関して発達的見地と計算論的見地の2つの観点から実験を行った。 1)乳児における遮蔽された物体に関する知覚の詳細を、可視部分の輪郭線の曲率が遮蔽された部分の知覚的表像に及ぼす影響という観点から検討した。選好注視法を用いた結果では、成人が「不連続」を感じるような図形配置のときに注視が多くなるということから、曲率不連続(「尖り」があるような場合)の影響は示唆されたが、曲率の量的な違いに関する明確な結果を得ることはできなかった。今後は、馴化・脱馴化パラダイムを用いての検討を予定している。 2)1)と並行して、可視部分の視覚的表象と不可視部分の視覚的表象との客観的相違を、成人を対象として検討した。まず、2次元画像を用いて、不可視部分の形状を描画によって直接的に答えさせるもしくはプローブドットと遮蔽されたモノとの位置関係を答えさせるという間接的な方法の双方によって、これを確率的に表現し、可視部分との関係を量的に記述しようとしている。認知的なバイアスをできるだけ避けるため、単純な幾何学的図形ではない適当な曲線図形(曲率によって定義される図形)を刺激図形に用いてデータを集積中である。現在のところ、遮蔽されている図形の可視部分だけによってその不可視部分の形状が決定されているのではなく、遮蔽されている図形の可視部分とそれを遮蔽している図形(当然可視である)との相互作用によって、遮蔽された図形の不可視部分の知覚表象が変化していることが示唆されており、刺激図形の生態光学的意味と今回の実験から得られた結果を統一的に記述する方法を計算論的に模索している。
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