1.主観的輪郭知覚の微小生成過程における現象特性(主観的な面形成、奥行きの変位、明るさの変容)を分析するための予備的研究として、明るさではなく色相によって定義された主観的輪郭パターン(等明るさパターン)を作成し、その観察を行った。Tcl/tkでプログラムされたパターンは、緑色背景上に描かれた赤色誘導図形(扇形)から成り、両色とも256ステップで明るさを変化させることができた。パターンの刺激布置は典型的なKanizsa型とし、主観的三角形、主観的四角形を誘導する2種類が作成された。また、等明るさの設定は、フリッカー法により観察者ごとに行った。3名の観察者が観察した結果、「等明るさパターンでは主観的輪郭の明瞭度がきわめて低くなる」という従来の知見が確認されたが、現象特性別の観察印象については観察者間で一致をみなかった。この観察結果より、従来一般的に用いられてきた評定法による現象強度評価の問題点が指摘され、選択反応課題等を応用した、より客観的な評価法による実験を計画する必要性が示された。 2.主観的輪郭知覚の微小生成過程における図形手がかりの作用を、前年度に引き続き検討した。使用されたパターンは誘導図形要素の左右対称軸の本数を異にする4種類(0本、1本、2本、4本)であり、対称軸の本数が多い図形ほど自己充足性が増すため、不完全性手がかりが有効に作用する微小生成過程の後期段階で影響が現れると仮定された。一方の連続性手がかりについては各パターンでの強度が等しくなるよう統制した。実験では、これらのパターンを10-300msの8種類の呈示時間でランダムに呈示し、各観察試行において主観的輪郭の明瞭度評価を行った。その結果、図形要素の対称軸が多いパターンほど明瞭度評定値の全体的水準は低くなり、呈示時間の関数としての評定値の変化は、いずれのパターンにおいてもほぼ単調増大傾向を示した。
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