ゴキブリに対して強い恐怖感を持ち、そのきっかけとなる記憶が明確で、さらに治療を希望する女子大学生21人を無作為に統制群、逆制止群、EMDRの3群に振り分けた。実験の第1日目には3群にそれぞれの介入を約30分行い、その前後に様々な指標を測定した。介入は、統制群はマンガを読むなどして休憩してもらい、逆制止群は筋肉を弛緩させて、恐怖イメージを浮かべさせた。EMDR群は恐怖イメージに焦点を当てながら眼球運動を行った。さらに、1週間後の第2日目にフォローアップとして第1日目と同様の指標の測定を行った。測定した指標は、主観的な指標として、(1)その記憶の映像の鮮明さ、(2)映像に対する否定的な感情の強さ(SUD)、(3)望ましい認知を信じられる程度(voC)、(4)ゴキブリに関連した様々な課題をどのくらいできそうかというセルフエフィカシ-、(5)ゴキブリ入りのゴキブリ捕獲器を捨てる課題直前の状態不安(STAI-S)の上昇、生理的な指標としては、(6)ゴキブリ入りのゴキブリ捕獲器を捨てる際の心拍数の上昇、行動的な指標としては(7)ゴキブリ入りの捕獲器を捨てる際の様子であった。結果の分析はまだ継続中だが、これまでの分散分析では、(3)のvoCにおいて、EMDR群の1週間後の上昇が統制群より傾向として大きかった。1週間後に測定した(5)状態不安(STAI-S)の課題直前の上昇が、EMDR群において他の2群より傾向として小さかった。今後、セルフエフィカシ-、心拍数、行動評定のデータを分析する予定である。これまでのところ、ゴキブリ恐怖の低減に関してEMDR群が統制群や逆制止群より優れた効果を持つようである。1週間後のフォローアップの後からは、3群ともにEMDRによる治癒的介入を十分な改善が見られるまで最高3セッション継続し、大幅な改善をどの指標においても示した。今後、長期的な効果の維持を確認するために、半年後にフォローアップを行う予定である。
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