研究者や医療サービスを提供する立場にある者に対して、当事者である患者やその家族といった医療サービスを享受する立場にある者、このように立場の異なる者どうしの間では、糖尿病の治療や療養において着目、重要視している事柄に相違のあることが予想できる。そして相違を検討してゆくことで患者や家族から順守度改善に有益な情報を得る可能性は小さくないと考える。 本研究では患者の食事療法順守度を高める、臨床場面に有益なデータを得る目的で、「療養生活において大切なこと」の他いくつかのテーマで当事者である患者に自由な発言を求め、患者同士議論をしてもらい検討を深めるFOCUS GROUPという質的調査技法を用いた調査を行った。そして医療を提供する側が開発してきた治療順守のためのいくつかの理論(保健信念モデルと社会的支援)についての妥当性を、当事者である患者同士の議論を記録し、質的に分析する方法で検討した。調査の結果得られた知見を以下に整理する。 1.大量サンプルの統計解析結果では、性別による食事療法順守度関連要因に違いが見られなかったが、今回の結果、治療(順守)への信念の認識、もち方について性別で差のあることが伺われ、順守度関連要因として信念の効果が異なる可能性が考えられること。 2.男性の患者は食事療法の献立や調理において配偶者の支援が重要であり、家族からの社会的支援の効果が考えられ、女性の患者は献立や調理を娘や嫁に依存している場合に社会的支援の効果が考えられること。 3.男性の患者は厳格に食事療法を順守しているとするものもある反面、そもそも食事療法を自分でしてゆくものと理解していないものがあり、これに対し女性の患者の場合は医師の判断とは別に自身のペースで順守していると考えられること。 4.患者は食事療法順守のための現実的な工夫と、生活(構造)の見直しが、信念や社会的支援と同様に重要とみていると考えられること。
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