本研究は、教授-学習過程において教師-生徒関係がいかにして再構造化されているのかについて、授業コミュニケーションの参与観察及びその調査データの社会学的分析によって実証的に解明しようとしたものである。この課題への取り組みとして次の3つの作業を行った。第一は教師-生徒関係、授業コミュニケーションの文献研究であり、a)関連性理論、b)エスノメソドロジーの先行研究の整理を通じて、コミュニケーションの中で起こる社会関係の秩序化の機制について学んだ。第二は質問紙調査データの分析を通じて、教師という社会的役割がいかなる構造をもち、どのような社会的関係の中でその役割が構成されているのかについて検討した。ここでは、教師役割が《教授実践》をめぐって構成されていることが明らかになり、その分析結果の一部は日本教育社会学会第48回大会において報告を行った。第三は授業実践の参与観察データを用いての教授-学習過程の秩序構造の分析である。この課題については現在も分析を継続しており、まだ報告書の公刊に至っていないが、次のような知見が導かれつつある。授業秩序は、教授-学習過程において生徒が教師の評価構造を先取りすることによって成立し、その過程を通じて、生徒は生徒役割と同時に教師役割をも身体化する。教師の評価構造の先取りとは、教師の個々の評価に対応するだけでなく、階層構造化された教師の評価に対応できることによって成立しており、その意味で、教授-学習過程とは、生徒が教師役割の内面化を通じて生徒となり、教師-生徒関係を再構造化する過程なのである。今後は、以上の知見の更なる実証とともに、家庭・生徒・教師の三者の評価構造の関連性についても検討を進めてみたいと考えている。これは学校の文化的再生産機能に関する実証研究への道を開くものとして期待している。なお上記の知見については、近日中に論文をまとめる予定である。
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