研究概要 |
本研究では、環境教育や異文化理解教育の一環として,自分自身とは「異質なもの」との共存,共生をテーマとする小学校での総合学習が,子どもの共生概念の発達にどのような影響を与えるのかについて,実験授業の分析にもとづき考察した. 実験授業は,小学校5学年家庭科の野菜の調理の単元をコアとしておこなった.この授業の特徴は,自己と他者での味の感じかたのちがいを子どもたちに意識させ,それをとおして自己の対象化と相対化をはかることにあった. ※ここでいう自己の対象化とは,おいしい・まずいの感覚には好み(嗜好)がかかわっていることに気づくことであり,相対化とは,そのような好みが人によってそれぞれ異なるのを発見することである. そのため,単元に入る前に,野菜に対する好ききらいについてのアンケート調査をおこない,また単元終了時には,自分自身がつくった野菜料理の味について,たがいに発表し合う時間をもった.授業の分析の結果,以下のことがあきらかになった. (1)自他の共生は,自己も他者もともに意識化されないままの状態からぬけだすところからはじまる.そのためには自己の対象化と相対化がおこなわれなければらない. (2)食べ物に対する好みは,自己の対象化・相対化をおこなうための有効な手だてとなる. (3)そのさい,授業での体験(自己と他者とではおいしい・まずいの感じかたがちがい,それは好みのちがいによるものであること)がベースとなり,自他の共生を実現しようとする行為を動機づけている.
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