現在ドイツにおいて多様な教育改革が行われているが、ノルトライン・ヴェストファーレン州をはじめとするいくつかの州では、「効率性」の観点に基づく学校制度全体の再検討が試みられている。ノルトライン・ヴェストファーレン州における改革のキーワードは「経済性」であり、教育制度への市場原理の導入を意図している。これは、現在欧米各国で進行しつつある教育改革と同じ方向性であるが、ドイツにおける改革での重要なファクターは、教育における「質的危機」ではなく、「政治的合法性の欠如」となっており、教育政策上の、そして個々の学校内部の争いをなくすことがその主要な目的である点で、他国とは異なる様相を呈している。こうした市場原理の導入は、80年代以降、価値志向が多元化したことによって、行政システムの対応能力に過重な負担が与えられてきたことに対する救済策としてとらえられている。ノルトライン・ヴェストファーレン州における改革案は、文字通りの国家財政面におけるコストダウンを意図しているだけではなく、組織における「経済性」をも重視したものであり、価値観の多元化によって生じている現在の閉塞的状況を経営学的観点から打開しようとする試みであるといえる。さらに、そこにおいては教育学的観点も生かされており、学校内での意思決定に基盤を置きながら、市町村と連携しつつ、地域に根づいた独自のプロフィールを持つ学校づくりを意図している。こうした90年代における学校管理運営論は、60-70年代における個々の権利論から展開された論とは異なり、基本法第7条や各州の学校法などの法的問題や学校の市場競争と国家による統制などの経済的問題の他、経営学的、教育学的問題を内包しており、これらからの多面的アプローチを必要としている。
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