1.本研究においては、尼子氏が権力を及ぼしうる範囲を明らかにし、戦国期大名権力の限界性を特定することを目的とした。そのため、尼子氏権力の直接的基盤と考えられる、尼子氏の所領・諸権益の分布と変遷、およびそのそれぞれの内部構造について、また、尼子氏直臣の構成と変遷、出自、本貫地や経済基盤、個々の人物の活動や性格、支配機構としての機能分担などについて、あらためて史料を蒐集して追求した。 2.具体的には、島根県立図書館・山口県文書館・岩国徴古館における調査、大社町内個人所蔵文書の調査によって新たな史料を発掘し、所領・諸権益の場所・年代や家臣団の人命・活動期間についてのデータを集積した。特に、尼子氏領国内において在地構造に関する最も豊富な史料を残し、また尼子氏の基本領国出雲国最大の経済的・政治的要地であり、そのため尼子氏権力の拡大において規定的な意味を持った出雲平野の歴史的経緯と構造について、本格的な分析を行った。 3.その結果、尼子氏は流通上の要衝に的確に基盤を獲得し、特に尼子晴久の代に入ってから直臣団の充実と直轄領の拡大を意欲的に推し進めたこと、それによって有力な領主層の基盤を削減・圧迫しようとしたことが明確となった。しかし、直轄領や一族所領・直臣給地の支配の内実は「構文」「名主」等の在地の有力者に大きく依拠するものであって、彼らに対する圧迫や役徴収のため在地における流通の担い手に依拠せざるをえない実情も浮き彫りにされた。さらに、尼子氏関係史料の蒐集を通じて、毛利氏の「家中」に関する検討をも行い、戦国期大名権力の直接の権力基盤と他の有力領主層との関係を論ずる視角の重要性を指摘した。
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