研究概要 |
(財)東洋文庫、国立公文書館内閣文庫、東京大学東洋文化研究所等における官蔵書や幕友秘本、或いは胥吏の用いた手引書類の調査・収集・比較検討から、本研究に着手した。その結果、既に良く知られた『幕学挙要』・『入幕須知』所収諸文献等以外に、『奏摺規式』・『宦郷要則』等の公文書雛形を記載する書物、また従前殆ど研究利用されることが無かった『通本簽式』・『部分簽式』等の抄本数種を参閲することができ、明清時代文書処理手順の実体解明に貴重な手掛かりを得た。 それらの分析により得られた成果の一部として、特に明末萬暦朝の公文書機構に関わる『本学指南』の分析を中心にまとめた論文「『本学指南』の歴史的性格-明代行政文書ハンドブック-」(本報告書、裏面所掲)を既に発表している。論中、掲帖が広くメモ・書き付け等としての性格を持つことなどを新たに指摘した。 実務担当者の手引書が当事者間で抄伝されるものであろうことは容易に想像されるが、『部院』・『部本』・『通本』の各簽式相互間、また『繕摺款式』と『奏摺章程』の間にそれぞれ共通記述が見られ、何らかの形での相互の抄伝関係が確認できた。就中、内閣附設の批本処や票簽処で実際に使用された業務ガイドブック(の写し?)と思われる各簽式は、内容の専門性もさることながら各々が相当の分量に上り、継続的に分析を進めることが今後の課題となっている。テクニカルタームの解明から開始する必要があると考える。 この他、長らく入手困難であったSilas, H. L. Wu.の清代上奏文機構に関する専著や、明清政治制度史関連諸論考、また政治制度改革の一環として文書制度につき提言している高拱の文集(部分)等も入手し、今後の検討材料に加えることができた。
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