研究課題の「十一世紀の片仮名交じり文の国語学的研究」につき、本年度において実績として報告できる調査・研究活動は以下の通りである。 1、文献資料の調査研究 当該の研究課題を推進するうえで必要不可欠であるのは、言語資料たる、11世紀の書写もしくは成立と判断される片仮名交じり文の原本である。また、この時代の文章全体、また後代の状況も視野に入れておく必要がある。本年度においては、近畿地方の高山寺、仁和寺、石山寺を中心に文献調査を行い、一々の原資料に基づき、書誌的事項、成立・書写、表記形態、語彙・語法などの観点から調書を作成し、必要に応じて写真撮影も行った。 2、文献資料の整理 寺院の異なりと文献資料の性格との相関性を観察する一助とすべく、上記の調書を寺院別にファイルに整理した。 3、文献資料に基づく研究及び学会における口頭発表・論文執筆 上記の調査旅行によって収集した文献資料に基づいて、11世紀の片仮名交じり文の言語の性格を解明すべく、多角的に考察を行いその成果を学会において口頭発表し、また学術雑誌に公表した。 なかでも、石山寺所蔵の「表白集」および金沢文庫保管「表白集」に拠って、仁和寺の僧侶平救の片仮名交じり文資料を軸として、11世紀の当該文献の、表記形態、語彙・語法について報告を行い、かつて文献資料が欠落していたために十分に論ずることのできなかった言語実態を明らかにすることができた。
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