美術館や図書館等を訪ね、古典籍・古美術品の販売目録や美術館等の図録類を広く求めて、歌人肖像画の複写資料の蒐集に努めたが、江戸時代を遡るものはやはり残存数が少なく、新たに確認できたものは十点足らずに留まった。しかもその内にはやはり人麿像が半数近くを占め、あらためて人麿影供の影響を再確認させられた。その中で注目できるものとして、早稲田大学図書館伊地知鐡男文庫蔵の阪昌文筆・三条西実隆讃のものと、自覚筆・伝自讃の宗祇像と、兵庫県篠山町某氏蔵の狩野光信筆・某讃の人麿像がある。宗祇のものは比較的同時代のものでしかも成立事情が判るものが多く残存するので、少なくとも室町時代における歌人(連歌師)肖像画制作の理由とその過程を伺う上での一典型となりうるものと考えられる。また光信筆人麿像は従来の研究によれば維摩像の影響を受けたとされる頭を起こして寝そべった姿のもので、現在調査途中であるが、五山僧の讃を有している。美術史的にも光信真作の可能性の高い画像として評価できるのみでなく、やはり維摩型が五山文化と密接な関係を有することを示す資料としても注目に値するものである。この他にも東山御文庫蔵の後鳥羽院像を実見できたり、近世のものではあるが逸翁美術館蔵の藤原成道像を新たに確認したりと、これまでに行ったきた歌人影供研究における新しい資料を得ることもできた。それらの諸資料をもとに歌人肖像画データベースを作成中であるが、本研究を通して明らかになったあらたな問題は、いわゆる歌仙絵と信仰対象としての肖像画の線引きの基準の問題である、現在は明確な結論が出ておらず、今後もデータベース作成を続けることによって確定していきたいと考える。
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