古典中国の文学論・芸術論にあって「情」と「景」の問題は、重要なテーマであった。本研究は、その問題を、六朝より宋に至る時代について、詩と絵画の交渉という視点から解明することを目的とし、以下の四項目の研究を行った。(1)「情」と「景」の問題について提出された国内外の先行研究の整理・検討。(2)六朝時代における『文心雕龍』をはじめとする文学理論書、「画山水序」をはじめとする画論書の調査・検討。(3)唐代における文学論・絵画芸術論の再検討・およびそれに関連する「意境説」の生成発展に関する研究。(4)唐代より宋代に至る詩と絵画の交渉と、それに伴う詩画同質論の形成に関する検討。 以上のような研究をすすめた結果、以下に述べるような諸点を明らかにした。 六朝時代より、詩とは「情」や「志」といった人間の内面に関わる芸術ジャンルであり、絵画とは「景」をはじめとする事物の「形」に関わる芸術ジャンルであるとする文学観・芸術観が一般的であり、以後、詩と絵画の交渉は「情」と「景」の対立概念によって語られてゆくことになる。唐代には、詩と絵画の交渉はより密接となり、詩と絵画との間に同質性を見出す美学(詩画同質論)が発生してゆくのであるが、その背後には詩もまた絵画のように「景」=「形」に関わりうるものであり、絵画もまた詩のように「情」に関わりうるものであるとする認識、換言すれば「情」と「景」の融合が発生していたのである。唐代における「意境」概念の形成は、そのような「情」「景」融合の別の派生物としてとらえられる。唐代における以上のような変化を受けて、宋代には、より洗練された「情」と「景」の美学のうえに、さまざまなかたちの詩画同質論が展開されていったのである。 以上の研究の成果を、現在、論文のかたちで発表すべく準備中である。
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