本研究は、19世紀のアメリカ文学、特にヘンリー・ジェイムズと当時台頭しつつあった大衆消費社会との関係を考察してきた過去の研究を更に発展・深化させて、ジェイムズを始めとする諸作品の精読をすすめると同時に、作品・作家という個別のレベルを超えたより大きな文学潮流にまで視野を広げ、ジェイムズが中心的な位置を占めていた印象主義やロマンスなどの主要な文学ジャンルが同時代の消費社会といかに緊密に結びついているかを考察した。具体的には、まず、同時代のイギリスの作家オスカー・ワイルドとの比較により、ジェイムズと消費社会、特にliterary marketplaceとの関係の特色と、ジェイムズ特有のその社会の捉え方を明らかにし、この問題について論じた論文(英文)は『言語と文化の諸相:奥田博之退官記念論集』に掲載した。次に、ジェイムズのWhat Maisie Knewの万博の場面に焦点をあてて、当時の新しい都市社会が印象主義が好んで描いた流動的な表層世界と同質である点、またそのような見かけだけの社会では階級や人種問題などの現実的要素が隠蔽され抑圧されている点を、The Portrait of a Ladyと比較しながら検討し、この研究成果は、アメリカ文学会関西支部7月例会で口頭発表した。更に、「贅沢の民主化」という大衆消費のモット-のもとで購入した商品で仮装すれば何者にも変身できるという非現実的・ロマンス的志向が新時代の指標になってゆくさまを、ジェイムズのThe Americanの登場人物NewmanとNoemieとが鮮烈に示していることを考察し、ジェイムズの小説にみられる近代都市のロマンス的特色についてのこの研究成果はPapers on Language and Literature(Midwest Modern Language Association of Americaのジャーナル)に掲載予定である。
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