本研究の目的は、被抑圧の側から提起され、近年展開をみたクィア・セオリー、ポストコロニアリズム、ジェンダーおよびセクシュアリティの問題を、現代アメリカ演劇および舞台芸術における理論と実践の両面から検証し、文化に表象される権力と支配の構造と、ポリティクスという意味における政治意識と文化に対する意識を考察することで、演劇における新たな表象文化論の方向性を探ることにある。このため本年度は、前述のテーマに関する研究書、学術雑誌を収集、通読し、特に1960年代から、1970年代のフェミニズムの動きと呼応して、女性というジェンダーが、男性支配を強化するための、社会的、文化的構築物であると認識されるようになった過程が、身体のポリティクスとして、いかに舞台芸術において表象されるようになったか、という視点から捉え直す作業を行い、その成果を所属短期大学付属の「女性文化研究所」の叢書に論文として発表した。また、ポストコロニアリズム、クィア・セオリーに関しては、近年これらの問題が、主体対他者に加えて、主体そのものの位置の在処とその変化をめぐる問題を包含しつつ、複雑化する傾向にあることをつきとめた。具体的には、ス-ザン・ロ-リ・パークス、アドリアン・ケネディー、マリア・アイリーン・フォルネスらの活動に関する資料を収集し、ケネディー、フォルネスに関しては、翻訳を準備中である。近年のカルチュラル・スタディーズの台頭に伴い、アメリカの舞台芸術研究の学界も、大きく二分され、さらに動向を見守ってゆきたい。
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