本プロジェクトにおいては、上(かみ)タナナ・アサバスカ語の言語データのデータベース化を試みた。過去から現在まで、現地において集めてきたデータをデータベースとして入力した。該当する言語データとしては、前後のコンテクストを伴わない単独の文が大部分を占めるが、その他に、互いに関連する語彙、例えば鳥の名前などを集めた部分もある。一纏まりをなした物語などテキストは、諸事情からなかなか得られていないが、一本アラスカ在住のネイティブの研究者ジェッシ-・デミェンチエフ氏によってビデオに収録された、ジャック・ジョン・ジャスティン氏の数十分にわたる戦争物語があり、英語による対訳が無いのが惜しまれる。その音声テキストを文字に起こすことは、訳が不明なことから、音声・音韻的に、完全さを求めることはもとより叶わぬことではあるが、一応試みてはある。ジョン・ジャスティン氏の死後、氏と同じナベスナ方言の話者は見つかっていないが、近隣の方言の話者の協力を経て、文字化、対訳を完成させることは我々上タナナ語研究者の、母語資料を我々に提供してくれているネイティブ達に負う責務である。 当初は、文字(転写)テキスト資料のみならず、一部それに対応する録音音声資料をも有機的にリンクし、さらには将来的には辞書へと発展する語彙目録を、テキストと有機的に連関させることによって構築していく予定であったが、単年度ではそこまでは至らなかった。そのような有機的、多次元的なデータベースの作成は、今後の課題となる。
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