今年度の研究においては、現代チベット語の方言のうち中央方言より西に分布する方言についてデータを収集した。 今回現地調査を行った方言は、インド ヒマ-チャル・プラデシュ州の東部、チベット自治区との国境近くで話されているものであり、チベット語の西部方言に属する。西部方言においては、中央方言と異なり、摩擦音・破裂音などに有声性が保持されており、古い形態を残していると考えられる。たとえば、「食べる」という動詞はラサ方言では[sa](低声調)であるが、西部方言では[za]と発音される。ラサ方言では、有声音が無声化する過程において低声調が生じた。西部方言においても声調を生じている方言があると報告されているが、今回の現地調査においては声調の存在を確認できるほどの十分な資料は得られていない。 今回の現地におけるデータ収集は、当該方言地域への入城許可を得られず、また異なる言語の調査と並行して行われたため結果的にきわめて不十分であり、今後調査を継続して行うことによってより多くのデータを集め、詳細な分析が必要である。
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