空間把握における言語表現と認知形態のつながりの密接さを、マックス・プランク心理言語学研究所の報告と比較対比するため、日本語のデータを広範囲にわたりアンケート調査で収集した。その結果、まず日本語の話者は「左右」を軸とした話者中心の相対的空間把握方法と、「東西南北」を軸とした環境主体の絶対的空間把握方法のどちらをどう使い分けているのが、という設問に関しては、絶対的空間把握方法を近接身体範囲にまで適応している言語習慣を持つ地域が日本全国に点在していることが判明した。この結果は、これまでに関東地方を中心に報告されている日本語の相対的空間把握方法優位説と対立するものである。 また、特に絶対的空間把握方法が顕著に見られる高知県高知市において行ったフィールド調査では、空間の言語表現に影響のある環境要因として当初予測された、山と海に囲まれた地形という点に加え、城下町であることが、手の届く範囲の物事を指し示すために動員されるメンタルスペースにまで強い影響を及ぼしていることが、被験者の指摘で浮かび上がってきた。空間把握方法を研究する際、こうした地域に特有の文化的、歴史的背景と言語表現、認知形態との関わりについても、今後さらに広範囲かつ地域ごとの詳しい調査が必要であることが確認された。
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