本研究は、1930年代のパリにあって、独自の表現領域を開拓した外国人芸術家たち、特に写真家および画家を中心とした人物と作品の研究に、当初の計画通りの成果を上げることができた。 具体的には、別記のとおり6編の研究論文にまとめた通りである。特に『アステイオン』誌上では、「1930年代の光と影」という統一したテーマのもとに、本研究の成果を連続掲載することができ、現在など継続中である。また「ブラッサイ『落書き』論」と題した論文においては、本研究のもう一つの大きな柱である〈パリ神話〉の解明そのものについても、さらに考察を進めることができた。 さらに本年度末(1997年3月)には、1930年代のパリおよびヨーロッパを、散文および水彩画という全く異なる2つの手段で表現した詩人・金子光晴の、未公開水彩画を調査し、初公開した単著『金子光晴 旅の形象--アジア・ヨーロッパ放浪の画集』(平凡社)を刊行した。これによって、自らを〈無国籍者〉として位置付けた光晴の視点から、1930年代パリの様相が、よりはっきりと浮かび上がったはずである。 上記の一連の著書、および論文によって、「1930年代パリと外国人芸術家」の個々の事例が研究されただけでなく、文学と政治、文学と写真、絵画と詩・・・などの境界領域の研究方法が探究されたことも、本研究の大きな実績として挙げることができよう。(658字)
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