古代ローマ喜劇研究の対象として、具体的にはテレンテイウスの『兄弟』(Adelphoe)とプラウトウスの『カシナ』(Casina)をとりあげた。ともに従来の研究史を調べつつ、コメンタリーをひもときながら、テキスト(オックスフォード版)の日本語への翻訳作業を完了した(この作業において、今回用意された西洋古典関係文献、およびPackard Humanities Institute CD-RoM利用環境がとくに有効であった。一方精読中に生じた疑問、発見については、今後さらに検討を加えたうえ、いずれ翻訳書の形で成果を公開する予定である(ともに京都大学学術出版会からの出版を予定する)。また、前者すなわちテレンテイウスの『兄弟』については、すでに研究成果を研究学会(於シエナ大学)にて発表し、その内容を論文にまとめておいた。その概要を簡潔に紹介すれば、従来の研究は、この作品の構成上の不均衡を問題として取り上げ、ギリシアのオリジナル作品よりも価値が劣ることを指摘してきたが、本稿においてはむしろ作者が作品のもつ「均衡」を敢えて破り、プロットの組立に独自の工夫を凝らした点を積極的に評価する。一方プラウトウスの『カシナ』については、随所にうかがえる「逆転」のモチーフが、この作品を解読するためのキ-を握っている点を分析した。各々の作品解釈の成果は、上記翻訳書の中で、「解説」として公開されるであろう。
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