1 アメリカ連邦歳入法上の「委託者課税信託(grantor trust)」の法理は、判例の展開、および立法的対応により発展してきたものである。判例上、これが認められた所期の判決である Douglas v. Willcuts 判決は、alimony trust につき、その実質的な受益者を夫とした点で画期的である。この判決は1917年のGould v.Gould判決を承けたものであり、1942年改正法へと橋渡しをする重要なものであった。なお、上記1942年改正法は Davis ruleと相まって、1984年改正までの間、アメリカにおけるalimony trustをめぐる課税関係を決定してきたものである。alimony Trust はある意味では委託者課税信託の実質を持ちながら、その例外としての扱いを受けるものとして存続してきた。これらの点の詳細は、別掲ジュリスト論文において発表した。 2 アメリカ連邦歳入法上の「委託者課税信託」の例外を成す、別の重要な分野として「外国信託(foreign trust)」がある。外国信託は、租税回避防止という観点から、委託者課税信託の実質を持たない場合でも、委託者課税信託として扱われ、アメリカの居住者である委託者が信託収益につき納税義務を負うからである。そこで、この規定の沿革・効果・問題点等について研究し、その成果を別掲『国際課税の理論と実務』所収論文において発表した。 3 わが国においてはアメリカにおけるような、積極的なメルクマ-ルによる委託者課税信託の制度が存在しない。そのため、委託者が信託について強い権限を有している場合や、経済的実質に則して考えると委託者が受益者と考えられる場合等について、課税関係を合理的に規制することに大きな問題が生じる。この点についての研究は続行中で、本年中に「税務事例研究」誌に成果を発表の予定である。
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