本研究では、公序良俗規範を取り上げ、その判断構造ならびに判断ルールについて研究をおこなった。具体的には、次の2点について検討をおこなった。 第1は、公序良俗規範の解釈・適用の際におこなわれる、原理・価値・利益の衡量の方法論について検討をおこなった。具体的には、最近のドイツおよびオーストラリアにおいて有力に主張されている原理間衡量の方法論(ビドリンスキー・カナ-リスらに代表される動的システム論、ならびにアレクシーの「ルール・原理・手続」モデルおよび法的議論の理論)を取り上げ、それを公序良俗論にどう応用していけばいいかという点について検討した。そこでは、とくに憲法学ならびに行政学の領域で支配的な「比例原則」が原理間衡量において重要な役割を果たすことを突き止め、それに即して公序良俗違反の判断構造を整理し、そこでとられるべき判断ルールにつき、一応の仮説をまとめた。 第2は、公序良俗に関するわが国の裁判例において、どのような原理・価値・利益が取り上げられ、それらがいかに衡量されて公序良俗違反の有無が決せられているかを検討した。具体的には、とくに暴利行為や不公平な取引方法に関する裁判例を中心に分析し、そこでみられる原理間衡量の特徴ならびに判断基準の傾向を抽出した。また、この検討とならんで、公序良俗規範とその他の規範、たとえば不法行為や不法原因給付との関係についても体系的・理論的な検討をおこない、その相互関係に関して一応の仮説をまとめた。
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