1.将来、身分行為の特殊性の一つとして、婚姻・養子縁組等について民法総則における無効・取消に対する特則が置かれていることが指摘されてきた。そこで、今年度は、まず、身分行為の中心をなす婚姻について、無効・取消の観点から、財産法上の法律行為との共通性と差異とを明らかにする検討を行った。 その結果、以下の知見が得られた。(1)無効・取消のなかで、(1)公益を理由とするものについては、より徹底的に効力否定をするために、主張権者や主張期間をより広く認めるとともに、追認を否定する方向に傾き、(2)私益を理由とするものは、効力否定が暖和され、主張権者や主張期間の制限がなされるとともに、追認が肯定される方向に傾く。このような区別が有効である点では、身分行為も財産法上の法律行為も基本的に共通する構造を有する。(2)婚姻の無効・取消の規定の母法であるフランス民法とこれを継受した旧民法においては、公益を理由とする無効について財産上の利害関係人にも主張を認めていたが、明治民法起草時に身分上の事項に財産上の利害から容喙するのは適当でないとされ、それ以降否定されている。この点では、財産法上の法律行為の無効・取消における公益性のあり方と若干の差異を示している。(3)婚姻の取消について、離婚に準じた位置付けをする動きにあり、この点では、財産法上の法律行為との関係で独自性を強めている。 2.以上の検討の概略は、概に法律時報68巻10号に公表している。婚姻・養子縁組の無効をめぐる判例理論の形成・展開を含めたより詳細な検討を続けており、「742条・802条(婚姻無効・縁組無効)」星野英一・広中俊雄編『民法典の百年IV』(有斐閣、1998年刊行予定)で公表する予定である。
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